理髪店デビューです2014.4.2
これまでれんたろうの髪の毛は私か夫が切ってきた。
ヘアカットばさみなどという洒落たものがないので、文具ばさみ(私が大学時代からずっと使っている10年もの。とてもきれが悪い)でじょきじょきと、最初はおっかなびっくりに、最後には大胆にアグレッシブにと、ともかく切ってきた。
こないだ年末に実家に帰ったとき、母から
「この髪型でええと思っちょん?」と聞かれた。
ええと思っちょん?って…。
私は数秒の間、それが何を意味しているのかわからなかった。
「ええと思っちょるよ?」
と言うと怒られた。
お前の息子は今とても変な髪形だから、必ず美容院に行くようにと言う。
仕舞にはお札まで握らされた。
しかし私が彼を美容院に連れていくことはなかった。
2月には母との旅行があったのだが、そのときもまた私が切ったヘアスタイルのれんたろうを連れていったので、同行していた母はますます怒り、れんたろうをかわいそうがった。
そんなに変だろうか?
私にも夫にもよくわからない。
見慣れてしまっているので、これ以外のれんたろうが思い浮かばない。
仮に変だとしても、こんな幼い子を美容院に連れていくなんて、
何て贅沢なことを言うのだろう、と私達は思っていた。
店によるけど、だって3000円するんですよ?2歳の子のヘアカットによ?
3000円あれば飲みに行くよ!いや、ごめん違う、違うな、絵本3冊買ってやるよ!
ちなみに母にもらったお札は食費および光熱費に消えました。つまり家計に入った。
↑髪を切る前のれんたろう。
別に変じゃないっしょ。ということで、冬のあいだ放置。
そろそろ保育園も新学期で、新しいクラスになるというので、
伸びてきたれんたろうの髪の毛をまた切ろうということになった。
で、性懲りもなく文具ばさみで切ろうと思ったのだが、
ふと近所で見かけた安い早いが売りのチェーンの理髪店のことを思い出した。
小児900円、とでっかく書いてある。
小児というくらいだから、幼児もやってくれるんだろうなと思う。
プロに切ってもらったら、どんな髪型になるんだろう?
900円というプチプラに気が緩んだ私は、さっそく休みの日にれんたろうを連れていくことにした。
理髪店に入るなんて、小学生のころ父についていった日以来だから20年ぶりくらいだと思う。
「絶対に検索してはいけない言葉」とか「GTO」とか「ゴルゴ13」とか、
よれよれのペーパーバックが置かれている。
せもたれのない椅子に座って切られているおっちゃんたちを眺めていたのだが、
まず、髪を洗わないでいきなりざくざく切っているのに驚いた。
あと「2センチで」とか「全体を刈って」とかいうストイックな注文のしかたにも。
予約制じゃなくて番号札制なことにも。
それからひっきりなしにお客が来るので、無言でずっと立ち回っている店員さんふたりともが、マスクをして顔色が土気色で無表情だったことにも。
だ、大丈夫かな…
何か、私が普段行く美容院とはまったく逆のベクトルの空間がそこにはあった。
女にとって美容院は癒しと再生の場所である。
ひらたく言えば、きれいでいいにおいで明るい。
迷ったり悩んだりしながら髪形を決めていく、甘やかかつ希望に満ち溢れた空間である。(言いすぎですね)
ところがこのチェーン店は、まるで稼動しっぱなしの工場のようである。
清潔なんだけど、雰囲気が…主に店員さんの…目が死んでるところとか…
やっぱり大変なのかなあ、この仕事…
窓に貼られた「社員募集!高収入保証!月30~35万円」のポスターをぼんやり眺めながら思う。
れんたろうの順番が来て、まずお母さんが抱っこした状態で切るか、と聞かれた。
それだと料金が300円上がるらしい。
とりあえずひとりで座らせてみることにすると、お兄さんが小高いクッションを座椅子の上に用意して、そこに座らせてくれた。
れんたろうは鏡に映る自分の顔と、私の顔を見比べてにこにこ。
ご機嫌なので、このままひとりで座らせて切ることに。
顔色の悪いお兄さんは、ものすごい速さでれんたろうの髪の毛を切り始めた。
しゅばばばばー!って感じである。
「刈り上げはいりませんよね?まだ毛が細いですし」
と、超スピードで手を動かしながら聞いてくる。
「顔を剃る必要もないですよね?」
あとから思うと全然そんな必要ないに決まっているのだが、
なにぶん理髪店で注文をつけたことがないので
顔を剃るのが当たり前なのかどうなのかもわからず、
「えーと?たぶん、いらないんじゃないですかね?ねえ?」
と、れんたろうに聞く始末。
れんたろうは楽しそうににこにこべろべろ(なぜか舌を出す)しているのみ。
そうこうしてる間にれんたろうの髪の毛はどんどん短くなり、
あっという間にできあがった。
ものの10分程度の話である。
その10分の間に、お兄さんには女の子の子供が二人いて、今3人目が奥さんのお腹の中にいるということ、そしてお兄さんは今度は男の子がいいなあと思っていることがわかった。
私は、顔色の悪いお兄さんがわりと子沢山であることを知り、何だかとてもほっとした。
「ええこやったな君。おじちゃん、切りやすかったで」
れんたろうはそうほめられて、ペコちゃんキャンディをひとつもらっていた。
「たべゆーたべゆー」と言うので、開けてやるとがりがりがりっと噛み砕き一瞬で食べ終わっていた。
お会計のとき、
「今日から値上がりするんで1100円です」
と言われる。
消費税8パーセント、初めてのお買い物である。
↑ちなみに髪型はこんな感じになりました。
なんか普通になったな…と思った瞬間、
「やっぱり前は変だったんだね」と気づいて、しばし途方にくれた。
れんたろうは髪の毛が多いので、やはり私が切るよりプロに任せたほうが断然いい。
今度からうちはあのお兄さんの店で切ってもらうことにする。