音読

たぶん週刊ランラン子育て帖

どもんらんってどんな人?

2012年の1月、音読編集部のもとに赤ん坊が生まれました。名前はれんたろう。「にゃあ」というなき声がチャームポイントの男の子。新米ママ土門、今日も子育てがんばります。

「えらいね」よりも大事なこと

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少し前、保育所にれんたろうを迎えに行ったら

「れんたろうくんのことで相談があるのですが」

と担任の先生に呼び出された。

「れんたろうくんはおうちでも、このおもちゃが欲しいとか

 これで遊びたいとかをハッキリ言わない方ですか?」

と先生が言う。

私は

「私や夫(父親)には言いますけど、他の子よりは

言わない方じゃないかなと思います」

と答えた。

 

先生いわく、れんたろうは保育所でおもちゃをよく他の子に取られるらしい。

そんなことはれんたろうでなくてもよくある話なのだが、

れんたろうに顕著なのはそのとき

「やり返さない」「怒らない」ということなのだそうだ。

それは近所で保育所の友達以外の子と遊ぶときにもそうで、

れんたろうは基本的に自己主張をほとんどしない。

みんなが大人にお菓子をもらっていても「僕もちょうだい」と言わないで

うろうろ欲しそうにまわりを歩いているだけだし(そして気づいてもらえない)、

自分がもっているおもちゃを「貸して」と言われると、今まさにそれで

遊ぼうとしていたとしても「いいよ」と(まったく「いいよ」と思ってなさそうなのに)貸してあげて、それで遊んでいる友達のまわりをうろうろ歩いている。

 

私はそれを見ながら、「気が弱いなあ」と思いつつも、

正直なところ「いい子だ」「優しい子だ」と思っていた。

4月の父母会でも、自分の子供の良いところとして

「和を大事にするところ。主役を他に譲ってあげられるところ」

と言っていたし、それがれんたろうのいいところなのだと思っていた。

 

先生は

「れんたろうくんはとても優しい子です。

だかられんたろうくんは怒っても良いところで怒ることができないんですよね。

そこは大人がフォローしてあげて、怒ることができるようにしてあげたいなと思ってるんです」

と言う。

長所と短所は表裏一体とは、まさにこれぞと思った。

 

私はこれまで彼が我慢をすると褒めてきた。

「おもちゃを貸してあげてえらかったね」

「お菓子を我慢できてえらかったね」

先生はさらにこう付け加えてくださいと言った。

 

「でも本当はあのおもちゃで遊びたかったんだよね」

「でもれんたろうはお菓子が食べたかったんだよね」

 

そうすることで子供は、母親はちゃんと僕のことをわかってくれている

ということを理解する。安心する。

それだけでストレスはとても軽くなるし、

自分はただ我慢をしたのではなく、

きちんと欲望があったけれどそれを理性で克服したのだと、

正しい流れを経た自己肯定感を得る。

 

私は「そうかあ」と納得し、

家に帰ってから夫にそのことを伝えて

「今日からは、れんたろうの気持ちをもっと汲んでやろう」

という話をした。

 

 

その夜、れんたろうに「今日保育園楽しかった?」と聞くと

「うん」と言った。

「先生に、れんたろうがおもちゃを取られたって聞いたけどほんとう?」

そういうことを聞いたのは初めてだったからか、

れんたろうは少しびっくりした顔をした。

「何をとられたん?」

「あのな、でんしゃ。でんしゃと、えほん」

「れんたろうはでんしゃとえほんで遊んでたん?」

「うん、ぼくでんしゃであそんでたのにとられた」

「やめてって言えた?」

れんたろうは「ううん」と言って

「いわんかった」

と言った。

「そうか」

「うん。そして、えほんよんでん。えほんをな、いっしょによもう

っていったのに、いややっていってとられた」

「一緒に絵本読みごっこするつもりだったん?」

「うん。でも、これはぼくのやからあっちいってっていうから、

もうあそばへんのかっていったら、ふんって、いうねん」

「そうかー。それは悲しかったな」

「うん」

「れんは、みんなと一緒に遊びたかったんやろ」

「うん」

「それができんで、残念やったな。でも、けんかしないでえらかったね」

「うん」

「えらかったけど、我慢せんでもいいんよ。

やめてとか、何でそんなん言うのとか、怒ってもいいからね」

「うん」

 

れんたろうからそんな話がでてくると思ってなかったので、

私は何でもない顔をしながらもものすごくびっくりして、

そのあとなんだか泣きそうになった。

 

そのことを夫に伝えると、夫は急に泣き出して(夫は泣き上戸である)

「あいつ俺の小さいときにそっくりやなー」

と言った。

 

 

 

がんばれとか、えらいねとか、

それよりも先にやることがあったと思った。

君は今こんな気持ちなんだね、

って、私が言葉にして教えてやったらよかったんだ。

 

それからは夫が男同士の会話を頻繁にするようになった。

二人きりで、お風呂の中なんかで

「今日はどやった?」

「お前、言うときはがつーんと言ったれよ!」

「けんかしてもええんやで。そのための友達やろ!」

などと言っているらしい。れんたろうはうんうん頷くのだそうだ。

 

それもあってか、ちょっとずつれんたろうも変化している。

このあいだ友達とバーベキューに行ったときには

ちゃんと怒って泣いてけんかしていた。

私は何度かなだめに行き、自然と仲直りする様を見ながら

これでいいんだなあと思った。

 

これからいろんなことがあるけれど、

いちばん身近にいる私たちが

れんたろうの気持ちをちゃんとわかっていられますように。

それが、れんたろうを大事にする第一歩なんだろうな。

 

子供の成長は続く。

 

ーーー

昨日は保育園の運動会だったのだけど、お休みをとって

私の義妹でありれんたろうの叔母にあたるしほちゃんの結婚式に参列した。

 

れんたろうの初めての運動会に出席できなかったのは残念だったけど、

結婚式ではリングボーイというめったにない大役を任され、

それをまっとうする姿を見ることができ本当によかった。

 

不機嫌になることも怖がって泣くこともなく、

「ぼく、おひめさまにゆびわもってくねん」と言って

神妙な面持ちでリングピローを運ぶれんたろう。

いろいろな方に褒められ、彼も自信がついたようだった。

 

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おめでとうしほちゃん。

お疲れ様れんたろう。

 

 

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