音読

たぶん週刊ランラン子育て帖

どもんらんってどんな人?

2012年の1月、音読編集部のもとに赤ん坊が生まれました。名前はれんたろう。「にゃあ」というなき声がチャームポイントの男の子。新米ママ土門、今日も子育てがんばります。

母のUFOキャッチャー

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3連休だが、車もなく出不精な私たち一家は

鴨川か、公園か、スーパーくらいにしか出かけない。

昨日は近所の小さなショッピングセンターへ

大学時代からの友達の赤ちゃんにプレゼントを買いに行った。

絵本を買おうと思い、本屋さんへ向かっていると

その近くのゲームセンターの前でれんたろうが動かなくなった。

繋いでいる手をぐいぐい引っ張って

「ママ!こっちよ!こっちにおもちゃあるよ!」

と、様々な種類のUFOキャッチャーを指さす。

 

最初は「お金がもったいないから絶対にだめ」と言って

絶対に立ち止まらなかった。

でも最近は「一回だけよ」と決めて一回だけやってあげる。

完全に禁止するのではなくて、一回だけと決めていっしょに楽しんだ方が、

私もれんたろうもちょっと幸福になれるしそっちの方がいいかなと

思うようになった。

100円玉を一枚握らせて、

「いちばんやってみたいのだけよ」

と言う。

 

れんたろうはミニオンズという黄色い地球外生命体の

UFOキャッチャーがやりたいと言った。

ピンポン球くらいの大きさのミニオンズが

うじゃうじゃと透明な箱に入っている。

彼も私もミニオンズという映画を観たことがないが、

ビジュアル的に心を掴まれたようだ。

「ママ、ぼくこれにする」

と言うので

「わかった。でもこれは簡単に取れないようになっているから、

もし取れなくても絶対にママを責めてはならない」

と念を押した。

れんたろうがうんうんうなずくのを確認してから

「じゃあれんたろう、お願いします」と言って

コインをれんたろうに入れてもらう。

 

 

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れんたろうはじっと眉間にしわを寄せ、

私がボタンを操作するのを心配そうに見つめていた。

不安なときによくやるのだけど、両手で服のお腹の部分を

ぎゅっと握っている。

「こういうのはどれを取るか決めるスタート地点で大体決まる」

「まあそれはセンスなんだけど」

「ちょっと行き過ぎたかな、くらいで止めるのがちょうどいい」

「まあそれもセンスなんだけど」

などUFOキャッチャーに関する独自の持論を展開すると

れんたろうは律儀に横でうんうんうなずいていた。

 

結果私はミニオンズを取ることに成功した。

れんたろうがその瞬間やったーでもなくすごーいでもなく

「よかったー!」と言ったのでちょっと笑った。

100円をいちかばちかにつぎ込む後ろめたさを、

3歳児なりに理解していたのかもしれない。

もったいつけた甲斐があった。

 

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↑戦利品のミニオンズ。

 

れんたろうはミニオンズをいたく気に入り、

近くの楽器屋でギターを試奏していた夫に向かって猛ダッシュしながら

「パパー!!ママがこれとってくれたんだよー!!」と

大声で叫んだ。

「よかったねー、ママ、これとれてよかったよねー」

「ママがこれをね、こーやってしゅってとったんだよ」

とれんたろうがキラキラした目で私にきゃっきゃと話しかけるので、

夫は少し羨ましそうな顔をした。

れんたろうは明らかに私を尊敬した目をしていた。

親をすごいと思えるのって、実はこういう大したことない瞬間だよね

と思った。

 

 

私も父親とよくゲームセンターに行った。

きっかけは私がセーラームーンのぬいぐるみを欲しがったこと。

父親は手先が器用な人なので、すぐにコツをつかんで

5人のセーラー戦士を揃えてくれた。

それからもよく遊びに行くようになったのだけど、

そのたび父はめきめき上達し、

二個取り、三個取りなんかもできるようになった。

「おとうさんはすごいな」「おとうさんにはかなわないな」

と、私は戦利品をもらうたびに尊敬のまなざしで父を見た。

母はぬいぐるみを持って帰るたびにしかめ面をしたけど、

「これは単に買ってもらったものではないのだ」

と思っていたのを覚えている。

 

そんな父親とずっとUFOキャッチャーをやっていた経験が

こうしてれんたろうにつながった。

ミニオンズをとったときの私の顔は父親に似ていたかもしれない。

 

 

れんたろうはミニオンズに「えみおん」という名前をつけた。

「えみおん、きょうからぼくのおうちでいっしょにねような」

「えみおんにおもちゃかしてあげるからな」

「ぼくはえみおんとずっといっしょやで」

「えみおんといっしょやから、ぼくはもうおかしをごはんのまえにたべへんで」

「おふろにおもちゃもっていこうとせえへんで」

と、ずっと自転車の後部座席でぶつぶつ言っていたので笑った。

100円でこんなにいい子になるなら安いものだ。

 

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