第25週 Hung Up / Madonna2017.1.20
うちの息子(5歳)が先日、私が化粧するところをじっと見て、
「かおのいろがかわって……びじんなおんなになっていく……」
と言っていました。
それがおもしろくて笑ったのですが、よく考えると本質をついた発言だなと思いました。
化粧とは、「顔を変えていく」行為です。
寺山修司は『青女論』の中で、「化粧をする女が好きだ」と書いています。
「一言でいってしまえば、私は化粧する女が好きです。
そこには、虚構によって現実を乗り切ろうとするエネルギーが感じられます。
そしてまた化粧はゲームでもあります。
顔をまっ白に塗りつぶした女には「たかが人生じゃないの」というほどの余裕も感じられます」
ところで『ヨコハマメリー』というドキュメンタリー映画があります。
メリーさんは横浜に実際にいた娼婦で、年をとって老婆になってからは家がなくホームレスになっていました。
資生堂の白粉で真っ白に塗った顔に、ひらひらのシフォンドレスを着て、荷物を持って移動するメリーさん。
声は高くてか細くて、言葉遣いも優雅で、彼女の声が聞こえたときには鳥肌が立ちました。
外で荷物と一緒に寝て、年老いて体も痛いだろうに、それでも施しは受けなかったそうです。
初めてその映画を観たときにすぐ寺山修司の言葉を思い出しました。
「たかが人生じゃないの」
メリーさんがドラッグストアで香水瓶をうっとり見ていた、というエピソードが忘れられません。
マドンナを見ていても、同じ言葉を思い出します。
「たかが人生じゃないの」と言いながら、ずっと歌っている気がする。
化粧には人のためにする化粧と自分のためにする化粧があって、
メリーさんもマドンナも、自分のために化粧をする女なんだと思います。
このMVの何が好きって、いちばん最初の、冴えない練習場でジャージを脱ぐところ。
たとえばこの練習場が人生だとしたら、そこで踊りまくる47歳のマドンナってめちゃくちゃかっこいい。
こういう現実を虚構で乗り切ってしまうエネルギーに、ものすごく惹かれます。
text:土門蘭