音読

一日一曲 日々の気分で一曲をチョイス。 書くこと無くても音楽がどうにかしてくれる! そんな他力本願なブログです。

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第72週  焼き尽くしながら進むもの | ASOBI / ZAZEN BOYS

年末である。

 

年末のたびによく目にする、「今年のベスト5」。
今年出た本、発表された音楽、公開された映画、その中からマイベストを選びリストアップするあの行為に、むかしから憧れていた。
ただわたしはどうやら時代についていくのが苦手らしく、世間がある新作で盛り上がり、落ち着き、すでにもう誰も話題に出さなくなる、そのときくらいにようやく着手する。こだわりもでなんでもない、ただ単に、足が遅いのである。

 

その理由のひとつに、繰り返し繰り返し、むかしからのお気に入りを読み続ける、聴き続けるという習癖があると思う。
それなので、新しいものを入れるスペースが狭い。まるで牛がなんども胃から食物を吐き出し口の中で反芻するみたいに、なんどもなんども味わい込んで「うまいなあ」と思ったりする。

 

さて、それなので今回も、今年のベスト1とかそういうのではない。
わたしの中で常にベスト5に入っているこの曲を、年内最後の『一週一曲』に持ってきた。
ZAZEN BOYSの『ASOBI』である。ああ、かっこいい。最高だ。なんど聴いてもそう思う。
この動画はZAZENの中でも一番かっこいいと思う、2014年のりんご音楽祭での映像。ほんとかっこいい、最高。

 

この、ごりごりのベースを鳴らしている吉田一郎は、突然昨年末に脱退すると発表した。
「ZAZENから吉田一郎が抜ける!!」
吉田一郎はZAZENの二代目のベースであるが、わたしは彼の骨太で色気のあるベースが大好きだったので、ひどくショックを受けた。

「やめないでくれよ」と思った。吉田一郎がZAZENからいなくなるなんていやだよと。
だけど、公式サイトのこのコメントを読んで、ああ、もうしかたないんだなと思った。

 

「2007年に加入し、10年間邁進し続けた吉田一郎は、ZAZEN BOYSのベーシストとしての、その持てるエネルギーを使い果たしました。あらたな一個の肉の塊としての次なる吉田一郎の活躍にご期待ください」

 

それはもう本当にしかたのないことだった。
だって、あのものすごい緊張感、まるで肉弾戦を観ているかのようなライブは、それに熱狂させながらも、このひとたちいつまで保つんだろう、と、思わされるものだったから。

 

それで2017年12月に、わたしは梅田クアトロまで吉田一郎のいるZAZEN BOYSのラストライブを観に行った。

 

それはもう、ものすごかった。ものすごいライブだった。
何だろう、人生がこんなものであったらいいなと思う、そして涙ぐんでしまう、ライブだった。

 

「2007年に加入し、10年間邁進し続けた吉田一郎は、ZAZEN BOYSのベーシストとしての、その持てるエネルギーを使い果たしました。あらたな一個の肉の塊としての次なる吉田一郎の活躍にご期待ください」

 

人生のうちで、エネルギーを使い果たせる瞬間になんど立ち会えるだろう。
あらたな一個の肉の塊になるには、古い肉をすべて焼き尽くさねばならない。
それほど焼き尽くされるものに、わたしはいくつ出会えるのだろう。

 

爆音を浴びながら、わたしはわたしで、一所懸命書き続けようと思った。
書き続けて書き続けて、なんどもなんどもエネルギーを使い果たし燃え尽きたらいい。
そしてあらたな一個の肉の塊として、またあらたに書けばいい。
吉田一郎に「ありがとう」と思った。こういう気持ちにさせてくれてありがとう。さようなら。またどこかで。

 

 

次のベーシストは女性だという。
彼女が入ったZAZENの「ASOBI」もめちゃめちゃかっこよくて、本っ当に最高だなこの人たちと思わず笑った。

 

メンバーひとりひとりを燃やしながらどんどん進んでく。ときどき、燃え尽きながら。燃え尽きた場所に新しく入れながら。そしてまた燃えながら。

 

text by 土門蘭

これまでの一曲

2018.12.14 第72週  焼き尽くしながら進むもの | ASOBI / ZAZEN BOYS
2018.12.7 第71週 優柔不断な所信表明 | それはちょっと/小沢健二